心を鎮めたいあなたに贈る一冊:池澤夏樹『スティル・ライフ』


疲れたとき、あなたはどのように自分を癒しますか?

熱いお風呂、一杯のコーヒー、休日の朝寝坊

それでもリセットできないとき、この一冊はいかがでしょうか?

北海道帯広市出身の作家、池澤夏樹氏による芥川賞受賞の短編小説「スティル・ライフ」と、もうひとつの短編「ヤー・チャイカ」の2作品が収録されています。

主人公「ぼく」は、同僚の佐々木が語る宇宙や微粒子の話に魅了され、少しずつ彼の世界観に影響されていきます。そんな佐々木に頼まれて一緒に謎のプロジェクトを敢行するなかで、ぼくは佐々木の意外な過去を知ることになる。プロジェクトが終了し、佐々木が姿を消した後も、ぼくの中には佐々木の気配が色濃く漂っているのです。

全編にわたる静かな語り口が、この小説の最大の魅力ではないかと思います。物語がドラマチックな展開も迎えても、2人の人物は強い感情に揺さぶられず、淡々としています。疲れてささくれだった心に、澄んだ湧き水のような文体が心地よく流れて潤いを与えてくれることでしょう。

かつて主人公と共に染色工場で働いていた佐々木。彼が見せる二面性に引き込まれます。マニアックな宇宙の話を淡々と語る、どこか浮世離れした佐々木と、株のデイトレードで大金を稼ぐ、やり手ビジネスマンの佐々木。どちらが本当の彼なのでしょう。謎めいた佐々木のキャラクターが、物語に陰影を加えます。

佐々木という不思議な男に出会ったことで新たな世界が開けていく「ぼく」の透明感も、この作品の魅力です。佐々木を批判したり、ジャッジしたりせず、ありのままの彼を見つめ、受け入れるうちに、無味乾燥だった「ぼく」の世界は豊かになり、静かに深まっていきます。

グラスの水をじっと見つめていた佐々木が「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」と語りだすシーンが印象的です。はるか遠くの星が爆発して生まれた大量の微粒子が、何千年も飛行して地球に押しかけてくる、その一瞬のきらめきを探していたのだと佐々木が説明すると、「ぼく」は実際に体験したかのように宇宙を思い浮かべ、それを「静けさ」と呼びます。チェレンコフ光という耳慣れない用語が、佐々木が紡ぎ出す静かな宇宙の象徴としてひときわ存在感を放ちます。


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